ブルーインパルスSPL LTD 開発ストーリー

オールブルーに輝く新しいブルーインパルスの限定ウォッチ。構想段階からサンプル試作機等の製作の製作段階を経て、1年以上の期間をかけて開発された。
今回のモデルの最大の特徴である「オールブルー」(ブルーイオンプレーティング)構想は水面下で行われ、当初社内での試作機開発段階までは量産仕様を視野に入れたものとはなっておらず、実現不可能な前提での試作となっていた。

簡単にいうと、「イオンプレーティング加工(ブルーIP)」それ自体が通常のステンレス素材にコーティングする際に多少ロスをする事を視野に入れて生産するものであるのに対し、本商品が「チタン」素材にこだわったために問題が大きくなった。チタン素材の上のIPコーティングはステンレスのそれよりロスが大きく、また修正が難しいという大きなマイナスがある。
また、ブルーIP加工は部分的に使用するのではなく「オールブルー」にこだわるとなると、時計のケースのみではなくベルトほかパーツにまで全てIP処理を施すことになるので、通常の時計本体に施すIP加工の比ではないロスをさらに招く事が確実となる点。
開発としてはとてつもなく大きな問題であり、実現に向けて解決するには先が見えない問題点でもあった。


ブルーインパルス×オールブルーIP」というコンセプト。
これまでにないブルーインパルスモデルとしてどうしても作りたい。
白とブルーを基調とした全体のイメージはボディ(ケース)と共にまさにブルーインパルス色に染まり、ブルーインパルスモデルにしかできない。ブルーインパルスモデルならではのモデルに完成度を高めていこうと決め、その思いだけで、足を止める事ができず、本来では足踏みする試作段階での上記問題点を保留し先に進めることにした。


次のステップはダイヤル。
時計の顔ともいえるダイヤルへのこだわりはケースに導いたブルーIPのおかげで!?より一層強くなり、先行して開発された(発売している)「S683M-03」とは違うもう一つの顔を設けようとこだわりを決めた。


航空幕僚監部担当の方との開発の協力も頂きつつ、デザインの製作と絡めて正式なエンブレムはもちろん、JASDFのロゴ等を絡めたデザイン。
すでに発売しているS683M-03モデルも頭に入れつつ、白を基調とするブルーインパルスの機体の上側(表側)をS683M-03とイメージという風に位置づけしブルーインパルスの裏側はブルーを基調としたまさに本モデルのカラーのイメージ。
現行のモデルと似て非なるものとしてこのS683M-07モデルと並べ、機体表裏のように並べて表現できる単に色違いとしてのモデルとしては開発したくない・・現行のS683M-03モデルとの差別化も意識して、ケースのみブルー化した色違いを開発するのではなく、全く別のものとして開発することにした。


ダイヤルは機体の垂直尾翼に描かれた1番機〜6番機の機体番号にちなんだ字体で1時〜6時を表現すること。そして5時位置のダイヤルインデックスを逆さに表現するアイデア
これは以前5番機(Read Solo)パイロット(ブルーインパルスパイロット井川さん)に伺った5番機のパイロットのヘルメットだけが番号が逆さに描かれているという事を聞きそれをダイヤルに踏襲することで知る人ぞ知る遊び心を演出してみたかった。


残された7時〜12時をエンブレムの中に描かれたマークはご存知の通りブルーインパルスのエンブレムの中に描かれた「6機のT-4ブルー」のマーク。
この12カ所2パターンのこだわりは新たな障害となり、こだわりを妥協しなければならない可能性があった。
「1枚の文字板(ダイヤル)の上にNDと言う別パーツで立体的に表現し、3.6.9時位置の3カ所のサブダイヤルも別パーツの立体的な仕様にする。」
1枚のダイヤルに3カ所のサブダイヤルを別パーツにすることで立体的な高級感を出すことは通常の時計であればごく当たり前のことだが、サブダイヤルの3時位置と6時位置、9時位置のデザインはクロノグラフモデルのモデルには当然デザイン上の制約があり、それをデザイン上でカバーできる範囲でそれぞれどこも商品化しているのが現状。
今回のこのモデルはその「こだわり」をどちらも妥協できない。
つまりサブダイヤルを立体にするか立体にしないで12カ所のインデックスのアイデアを優先するかという壁に立ちはだかった。
結論から言うとそのこだわりを捨てきれず、開発量産へ向けた仕様とは遠い難しいスペックを時計本体はもちろんさらにダイヤルにまで施したという形になった。


いよいよ量産化するに難しい時計を企画してしまったわけだ。


思えばこのS683MモデルはS683M-01モデルで機械式自動巻きという形で組み込んだスペシャルモデルとして開発された経緯がある。
50周年記念のスペシャルモデルとはいえ50万円もする50個しか作れない希少なモデルが予約で完売してしまった経緯のなかで頂いたコメントの中に「クオーツバージョンのスペシャルモデル」があってもいいのではないか?という言葉を頂いた事を思い出した。


最後に「スペシャルディスプレースタンド」の話。
曲技飛行中のブルーインパルスはとてもすばらしい。※2013.8.19「曲芸」→「曲技」修正
それと同様に駐機中の機体も同じように美しい。

そんな思いから生まれたアイデアがこの『スペシャルディスプレースタンド』だ。
機体は大空を舞い、必ず陸へ戻る。
綺麗に駐機する機体を思い浮かべたとき時計も同様に飾れる場所が欲しいとおもったことから具現化されたこの企画は時計同様にこだわりを盛り込んだ為に大きな壁として立ちはだかった。
時計業界としての時計を飾る(いわゆるCリング)はごくごく一般的なものはゴマンとあるが、作りたいのはそういうものではない。
3Dとして立体的に描かれた「T-4」をできるだけ鮮明に、そして美しく。というかたちで時計と共に飾りたい。
Cリングは通常木製やプラスチック、アクリルなど比較的軽く、加工がしやすいもので存在するが今回の「3D」はガラス素材であるため時計のCリングとして開発した経緯がない。
そもそも目的が違うものを時計のCリングとして採用しようとするわけだから、そこには業界の壁を越えた試行錯誤が多少なりと産まれてくる。


ケンテックススタッフの献身的なフォローと情熱が商品化への道を広げ、単なる「おまけ」ではなく商品とセットで満足頂けるものとしてお届けできるように苦労を重ねた。


本モデルはケンテックスブランドにおけるブルーインパルスモデル11作目のモデルとなる。


世界で初の「瞬間帰零秒針機能搭載回転計算尺機能付きクオーツクロノグラフモデル」とそれだけでも十分なスペックを誇る仕様はブルーインパルスモデルの名にふさわしいものになることはいうまでもない。


振り返らず開発を続行しここまでたどり着いた今日までに様々な協力を頂いた防衛省関係者、ほかスタッフ各位に感謝したい。


(丹羽 忍)